ク リ ス マ ス の 魔 法












「クリスマスどうするぅ?」
「んー、ケーキでも食べにいこっかぁ?」
「女だらけのクリスマス会?やっちゃう?」
お弁当を食べながら、今年も彼氏のいない5人組で話していたら、すっと横から鼻が割って入ってきた。
…鼻じゃなくて、高井くん。
「ナニ、佐々木、お前ら女だけでやんの?さーみしー」
それを聞いたユミ(の名字が佐々木)が反発するように、箸を下ろす。
「なによー!高井だって彼女なんていないでしょうが!どうせ寂しいクリスマスなんでしょー」
「う…」
それをその隣で聞いていた森長くんは、二人を落ち着かせるように、緩やかにこう言った。
「まぁまぁ、じゃあさ、俺らサッカー部と、佐々木らで、クリスマス会しない?」
その言葉に、私たちはすごい勢いで食いついた。
「え!いいよいいよ!やろう!森長いいこと言うじゃん!」
と、ユミ。
「ねー、じゃあ水野くんも来る?」
と、ミカ。
「あたし、シゲちゃんも来て欲しいなぁ」
と、カナ。
「不破くんって来るかなぁ?」
と、ナオ。
私は…その言いだしっぺの顔をじっと見た。
…森長くんと、クリスマス過ごせるの?
その時、ふっと森長くんの顔がこちらを向いたので、慌てて教室の全体を見るフリをして目をそらした。
盛り上がる四人を横目で見て、密かに、高井くんにも感謝した。
今年のクリスマスは素敵な日になりそうだなぁ、と。
楽しみで、楽しみで、仕方がない!
私はお弁当もそこそこに、皆と当日の予定を決めることで頭がいっぱいになった。



当日は皆でまずケーキバイキングのお店へ行き、それから風祭くんのお家で持ち寄ったお菓子やらお肉やらを食べようということになっていた。
そのケーキ屋さんのケーキはとてもおいしかったのだけれども、何よりの不満は森長くんとちっとも接することができなかったこと。
他の女の子はお目当ての男の子がいて嬉しそう。
私も、それだけで嬉しかったはずなのに。
今まで、ちょっといいなって思い始めて、ほとんど必要以上話したことなんて無かったけれど。
気づけば目で追ってて、やっぱり気づけば好きって気持ちだけが大きくなってた。
当然、本人はそんな風に私が思っているだなんて気づくはずも無いだろうし、私も自分から行動する気もさらさら無かった。
だから、今日のこの日はまたとないチャンスだなって思ってたのに。
実際には何もすることができない自分に、自分でしょんぼりしていた。
周りの男の子も、女の子も、みんな楽しそうで、…森長くんもすごく楽しそうで。
私だけが表面はそれに合わせていても、何だか楽しそうじゃないみたいで、それがとっても皆にも申し訳無い気分に、なっていた。

「…どうか、したの?さん」
風祭くんの家へと向かう道中。とぼとぼと最後尾につく私に声をかけてくれたのは、風祭くんその人だった。
「え、ううん。どうもしないよ?」
まさかあんなことを言えるはずもなく、私は大きくかぶりを振った。
けれど、風祭くんはにこやかなその笑みを崩さずに、こう続けた。
「…森長?」
それはすごく小さい声で、多分皆には聞こえないように言ったのだろうけれど、私はその単語に激しく反応してしまった。
驚いて、風祭くんを見つめると、歩きながら彼はその笑顔のまま「ずっと見てたでしょ」と言ったのだ。
私は薄く(風祭くんって結構恐ろしい人かもなぁ)と思ったけれど、それも口には出さずに、ただ彼の言葉を待った。
そんな私の様子を見てか、風祭くんは、少し小さな声のままこう、言ってくれた。
「今から僕の家に行くでしょ。そこで、さりげなく、森長の横に座ったら?もちろん、僕も協力するし」
どうして、そんなことしてくれるのだろう、と思わず疑問にも思ったのだけれど、
風祭くんってこういう人みたい。
おせっかいが好きな人なのかなぁ。
私にとってはそれはおせっかいなんかじゃなくって、すごくすごく天の助けとなるような言葉。
私は小さく、
「本当に?」
と思わず聞いてしまった。
彼は、気を悪くすることもなく、例の人好きのする笑顔で、
「もちろん」
と大きく頷いてくれたのだ。
私は何だかそれですっかり嬉しくなってしまって、それから彼の家に着くまでに、色々と話してしまった。
風祭くんはとても聞き上手で、私はさっきまでの落ち込みはどこへやら、彼の家での二次会に心躍らせるようになっていた。
それを軽く目にしていたユミに不思議がられるぐらい。

「じゃあ、皆適当に座ってね。僕、飲み物用意するよ」
さりげなく風祭くんの近くにいた私は、彼が背中を押して少々強引だけれども、「さんも座ってよ」とか言いながら森長くんの隣に座らせてくれた。
ああ、もう!第一関門突破じゃないか!!
私は笑顔で彼を振り向いて、密かに親指を立ててしまった。
それを受けて、風祭くんは笑顔でキッチンへと消えていった。
そこで、肝心の森長くんが、
「俺、手伝いますよ」
と、キッチンへと入っていってしまったのだけれども。
風祭くんは私のときと同様、背中を押して「まぁ座ってて」なんて言いながら森長くんを私の隣に戻してくれちゃったのだ。
本当に、感謝します。
「一杯目は、これね。…気分だけでも」
そう風祭くんは言って、包み紙を捲くったままのビンから黄金色の飲み物を注いで周った。
「お、ポチ、気ぃきくやんけ!シャンパンやなんて」
と佐藤くんが言うと、風祭くんは苦笑いをしながら、
「これはシャンメリーなんだけどね。ホント気分だけでもと思って」
なんて言って、皆笑った。
それからは、風祭くんの振舞ってくれたシャンメリーと、皆で買ったケンタッキーのチキンやらお菓子やらを並べて、楽しく食べ始めたの、だけれども。
喉が渇いていた私はシャンメリーをぐーっと煽ってから、何かヘンだな、と気づいた。
でも、それは少し遅くて。
「みんな!ごめん!それ飲んじゃだめだぁ!間違えた!!」
と風祭くんが言ったときは、既に私を始め、数人はシャンメリーに手をつけていた。
でも、一気に飲み干したのは私ぐらいだったみたい。
私の目の前でぐるりと世界が反転したり、元に戻ったりするのを見て、あれれ、と思いながらも、頭の隅では(これはホンモノじゃないかー)と理解した私がいたのだけれど、身体の方は正直で、私はすぐに記憶を失った。
遠くで、誰かが私を呼ぶ声を聞きながら、そう。私は、眠りについたのだった。

前日は楽しみで寝られなかった分、とてもぐっすりと私は寝ていたみたいで、私が起きたときは既に宴は終わろうかというところだった。
目が覚めると、隣の部屋で楽しそうに皆の声がしてきた。
私は一人、暗い部屋で寝かされていたみたいで、急に悲しくなってくる。
…すごく楽しみにしてたのに…!
寝かされていたベッドから降りると、風祭くんのものだろうか、サッカーボールが足に当たった。
それを私は軽く蹴り飛ばすと、部屋のドアをそっと、開けた。
「あれれ、、今起きたんかい!お前も大概弱いやっちゃなぁ」
佐藤くんがそう言って、こっそりドアを開けた私を皆の輪に引き入れてくれる。
ユミも「ー!」なんて大げさに言って飛びついてくる。
皆、もしかしてアルコール飲んだ?と思ったら、それは最初のあの間違いの分を少し口にしただけで、ちゃんとその後はジュースを飲んでいたらしい。
風祭くんはまさに平謝りの状態で、私に勢いよく頭を下げた。
「本当、ごめんね!大丈夫?気持ち悪いとかは無い??」
それは本当にすまなそうだったし、多少はむっとしていた私の気持ちを簡単に溶かした。
「いいよ!大丈夫!」
私は気楽にそう言うと、すぐに皆の楽しい気分に飲み込まれるようにテンションがあがっていくのをどこか他人事のように感じていた。
でも既に皆帰り支度を始めていたので、私は本当にがっくりとうなだれんばかり。
「…まじで、皆もう帰るの?」
私はクリスマス会してない!!と思っていたら、今日の私にとっての諸悪の根源とも言うべき風祭くんがこう言ってくれた。
「森長、さっきさんと家近いって言ってなかった?送っていったら?もう暗いし、女の子一人じゃ危ないから」
その言葉に思わず顔を上げて風祭くんを見ると、彼は本当に目が謝罪の意を示すようにきゅうっとなった。
そう言われた当の本人、森長くんは、
「そんなこと言ったっけ?」と小さく言いつつ、「でも、本当さん一人じゃ危ないっぽいよね」と笑いながら、私のカバンを差し出してくれたのだ。
…それだけでお腹いっぱいになりそうな気がしたけれど、そう、私のクリスマスは今日ここからだ、と思って、元気に返事をした。
「森長くん、よろしく!」
ふと、残りのメンバーを見ると、カナとナオは先に帰ってしまったらしく、残ったユミは本当に家が近い高井くんに送ってもらうようになっていた。
「…じゃあ、行こうか。風祭さん、お邪魔しました〜」
しばし呆けていた私をヨソに、森長くんは玄関をくぐっていってしまった。
慌てて風祭くんは追い立てるように私を玄関へ追いやる。
「…ホント、ごめん。僕のせいだし。もし二日酔いとかあったら言ってね。兄貴の薬あげるから」
「あはは、あのお酒もお兄さんのだったの?…私ホント大丈夫だから!気にしないで!つうか、むしろありがと!」
思わず嬉しくなって風祭くんの肩をばしんと叩いてしまうと、彼は苦笑いで、
「……アルコール、残ってるみたいだね」
と静かに言った。
それを聞いてか、森長くんは、頷く。
「いつものさんぽくないしね。ちょっと心配だし」
二人はそこで笑い合って、そして、森長くんは少し離れていた私の側まできて、「帰ろうか」と言って、歩き始めた。
私はそれに倣って、彼の左側に回った。

外を歩くと、雪こそ降っていないものの、吐く息は白く、足元から冷えてきていた。
吸う息もキン、と冷たく、感覚としては火照る頬には心地よい程だった。
「寒いね」
と森長くんが急に話しかけてくれたのに対して、私は頷きながらも、
「でも、私には気持ち良いかも」
と返した。
…すっごい、何か普通に喋れている自分に驚きながらも、そのまま森長くんと他愛のない話をしながら、二人で歩いた。
さんちは、小山町?」
「うん。4丁目」
「あ、じゃあホントに近いんだ。俺は1丁目だから」
「知らなかった」
「ホント、同じクラスなのにね。こうして話すのも初めてぐらいだよね」
そう言って笑いかけてくる森長くんを見て、すごく、好きだなって気持ちが容量を超えた感じがした。
それは嬉しくて、舞い上がってるせいもあるかもしれない。
こんな風に歩けるだなんて、夢にも思わなかったぐらい、密やかに好きだなって思っていたんだし。
こんな風に自然に話せるのって、アルコールのおかげなのかなぁ。
私はここでもちょっぴり(ホントにちょっぴり)風祭くんに感謝をした。
そのせいで、普段はできないことも、言えないことも言えてしまう。
私は右手をポケットから出した。
「森長くん」
「ん?」
私は立ち止まって彼を見上げた。
森長くんもそれに気づいて、足を止める。
私は向かい合うような形になってから、言った。
「手ぇ繋いでもいいかなぁ?」
「…えっ!?」
私は今、とっても手を繋ぎたい衝動に駆られたのだ。
案の定、森長くんは慌てるように身体を左右にふらふらと揺らし始めた。
「えっ…と、えっと、いい、けど、」
そう言った森長くんは私と同じようにポケットに突っ込んでいた左手を出して、おずおずと私に差し出す。
それを私は下から攫うようにきゅっと握ると、森長くんは「つめてっ」と笑った。
「冷え性だし。森長くんの手はあったかいね」
「…ポケットに入れてたからかな?」
私はすごくすごく嬉しくて、本当に繋いだ手をぶんぶん振り回して歩きたい気持ちだった。
かろうじて、その衝動は押しとどめて、繋いだ手のぬくもりと、外側から当たる冷たい風の温度差を感じながら、歩いた。
「やっぱさぁ…」
切り出した森長くんの言葉の続きを私は待った。
「クリスマスの雰囲気で、こうなっちゃうの?」
その森長くんの言葉、言わんとするところを読み取り、私は軽くショックを受けながらも、むしろエンジンもかけられたよう。
私の思いは、止まらなくなり、口から滑り出した。
「そんなんじゃ、ないよ」
じゃあ、どうして、と不思議そうに私を見下ろす森長くんの目を真っ直ぐに見て、茶色いな、と思いながら、私は言った。
「森長くんが好きだから、だよ」
私がそう言ったとき、森長くんは、「え」の口のまま、しばらく固まっていた。
…手は繋いだままで。
みるみるうちに繋いだ手の中の温度が上がる気がして、私は口をぎゅうっと結んだ。
手に汗、かきそう。
そんなことを思っていると、ようやく森長くんは「え」の口から言葉を発した。
「な、なんで?」
何で。何で、か。
私はそう聞かれ、言葉に詰まった。
理由、理由、理由なんて、
「理由なんて、無いよ。何か好きって思って、ずっと見てたから」
そう私が言うと、今度こそ、森長くんの顔は暗い夜道でも分かる程、赤くなった。
その少し困ったような苦笑いがすごくまた、好きだって思えて、私は胸の奥がきゅうっと鳴る音を聞いた。
森長くんは、うーん、とかえー、とか色々唸りながら、言う。
「俺、その、のことをそんな風に見たことって無くて…」
「…うん、そんなの、分かってるよ」
にべも無く言う、というような私に森長くんはまた唸る。
それでも手は繋いだままなのが、何とも、森長くんっぽくって、笑える。
だって、多分、そういうところが好きなんだと思う。
何だか可笑しくなってきて、笑顔になってきちゃった私を見て、森長くんも笑顔を見せた。
「…でも、うん、今日話してみて、また、もっと、話してみたいと思ったよ」
歯切れが悪く、でも何だか強くそう言われて、今度は私が少し、頬の火照りが増すのを感じた。
「好きとかそういうのはまだ分かんないけどさ、…良かったら今度電話しても良いかな」
私はこの瞬間、今まで信じていなかったサンタクロースを信じようと思った。
…今年のクリスマスは、最高のプレゼントがもらえたような、気がするのだから。
森長くんは繋いだ手を大きく上に回して、手の間をすうっと抜ける冷気を感じながら、「手に汗かく」とか私と同じようなことを言っている。
今晩の電話で、初詣にも、誘ってみようかな。
アルコールのせいでだろうか、少し大胆になっている私は、森長くんと一緒に手をぶんぶん振りながら、家路に着いた。

















うまいことタイトル付いてよかった。
ちっとも浮かばなかった。

それはさておき、中学生のときに、男女混合でクリパをしました。
これが結構楽しかったんだなー。
さすがにアルコールは間違っても飲まなかったけど(家では飲んでいましたけれども)




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