「あぢぃ」

俺は、夏ももう終わった、と言った天気予報のおねえさんを嘘吐き!と心で罵りながら、空を見上げた。
手をかざして陽を遮る。
あー、流れる汗のうざいことうざいこと。
喉渇いたなぁ…。

「ドリンクでーす!!」

なんていいタイミング!
俺はすぐさま振り向いて、コートの脇にいたマネに走り寄って、ドリンクを受け取る………あれ?
は?てーか、君、だれ?」
「えー、藤代先輩冷たいー。さっき自己紹介しましたよー。斉藤ゆいですよー」
「そうだっけ」
なんだ、がいないじゃん。つまんね。
でも乾いた喉に、身体に染み込んでゆく冷たい感触が気持ちよい。
しかも、いつも通りの味。
作ったのはだよな。
「誠二、今日からマネになるって斉藤サン紹介されてたじゃん」
「そうだっけ」
「ホント、お前、以外目に入んないのかよ」
「んー、そういう訳じゃないけどさー」
呆れたような竹巳の言葉も、染み込んでくる。
そうなのか。俺、以外目に入らないのかも。
だってはあんな媚びた笑顔とかしないし。
きょろきょろと辺りを見回す。と。
あ、あんなとこにいた。
がグラウンドの反対側をてくてく歩いているのが見える。
重たそうなその洗濯物を3軍の男が手伝っている。
…面白くねぇ。



俺、藤代誠二はが好きだ。
好きだなって自覚して約1年。
学園祭のときなんかは渋沢先輩にまで協力してもらって(裏で手を回してもらった、とも言う)一緒に用意したり、当番したりして、やっと告白まで漕ぎ着けた。
が、に勢いで告白したものの、なんとも微妙なことに、
「今すぐどうこうって訳じゃない」
なんて言ってしまった。
これはもう、アレだ。
自分が悪いんだけどさ。
こう言ってしまったら、また自分から答えを聞きに行かない限り、あいつの性格上、絶対進展は無いと思う。
しっかりしているようで、ぼーっとしてることも多いし、
こういった恋愛ごとには慣れてなさそうなんだもんな。
告白した途端、完全に意識されて、見事に避けられてるし。
意識されたのだけは良い方向かもしれないけど、全然ダメなほうだ。
むしろ、気づかせるべきだったのか。

しかし、ホントにずっと、あいつ、俺の気持ちに気づかなかったんだな。
本当に鈍いヤツ。
俺は気づかれてもいいやーぐらいの態度だったんだけど。
多分、他のやつらは気づいてるんだろうけど。
それは、に変な虫、つかないからいいかなって思う。
鈍いやつなだけ、自覚無しにサッカー部員だとか、まぁ、他のところでは分かんないけど、たくさん話すし、
俺はやりきれない訳なのですよ。

そこまで考えて、はっと思い出す。
そういえば、あいつ、男と二人で洗濯物干しに屋上向かったんじゃないか?
何が起こるか分からないっていうのに!
俺は慌ててドリンクを竹巳に押し付けた。
「は?誠二?」
「ちょ、俺、頭いたくなってきた!」
「ええ?」
そう言って、俺は思い切り、走り始めた。
遠くで竹巳の「どこがだよー」と言う声も聞こえたが、この際聞こえないふりだ。






                       な つ の お わ り 







私は洗濯物を干しに屋上へ向かった。
いつもは一人で二度、往復するのだけど、今日は手が空いた、という部員に手伝ってもらえたので、一度だけで済んだのだ。
「すごい、ラッキー。嬉しい」
「そう?ホントはいつもしたいんだけどね」
そう言って彼は苦笑いした。
「何言ってんの。練習もしなきゃ!もうこっちは良いよ。ありがとうね」
彼は3軍だけど、いつも真面目に練習している人だ。
大体3軍に入れられた子は大半が1ヶ月程で辞めてしまうのに、彼は頑張っているうちの一人。
そんな人には好感がもてるな、と私は思う。
だから、練習に響いてはいけない。
彼は「ありがとう」とバカ丁寧に言って走って階段を降りていった。
さて、私も頑張るかな。
洗濯物の山を見て、半袖のシャツを肩までまくってポッキー焼けにならないように意気込んだ。
風になびく白いタオルを整然と並べて。
私は藤代のことを考えた。
この前、学園祭のときの突然の告白以来、私は藤代のことばかり考えるようになってしまった。
ふじしろせーじ。
勝手なヤツ。
散々私のこと、女っぽくないだの言っていたクセに。

―これから俺のこと好きになってくれたらいいから

彼の言葉を思い出して、一人恥ずかしくなって顔を押さえる。
まだ、分からない。
はっきりしない。
でも自分の中に今までと違う何かは芽生えている。
それを何と言うべきか分からなくて掴めなくて、どんな顔をして良いものやら、私はあれから藤代を避けている。
別に藤代は今までと変わることなく普通に接してくるのだけれど。
私の方が先に身体が強張ってしまい、普通にできなくなるのだ。
こんなの、嫌だなぁ。
ちょっと前みたいに、戻りたい。
二人でヤキソバをつついたあの時みたいに。
けれども、どうしたら戻れるのか。考えあぐねても答えは出ない。
ばさばさとはためくタオルを見やり、私のこんなごちゃごちゃした気持ちも吹っ飛べばいいのになー。
なんて、考えてみる。無理だけど。
私は二つのカゴを重ねると、屋上を後にすることにした。
屋上から重たい扉を開くと、見慣れた顔がすぐ見える。

「…ふ、藤代?」
「よ」
「何、こんなとこに???練習は?」
「頭痛いって抜けてきた」
「えええー」
「や、本当に頭痛いんだって」
急に額を押さえてうずくまる藤代。
私は軽く驚いて、ひざまずく。
「ちょ、大丈夫?保健室行く?」
俯いたままの藤代が普段とは少し違って、少し慌てて私は覗きこむ。
すると、ぱっと彼は顔をあげ、肩をつかまれた。
「な」
そのまま、彼の顔がぐっと近づいて、私はその先を予想することもできずに、反射的に目をぎゅうっと瞑って、
唇になまぬるい、やわらかい感触。
私はそのまま固まってしまったように身動きが取れなくなった。
何、今の。
何、今の。
何、今の。
ようやくそおっと目を開けると、藤代が真剣な顔でしゃがみ込んだままこっちを見ていた。
「……反則…」
「お前が無防備すぎるんだよ」
まるで私が悪いみたいに言われて。でも私の思考回路は止まっているので、反論もできずにただ尻餅をついた。
今のは、あれか。
あれですか。
私は藤代の口元を見て、思わず目をそらす。
「まさか、その……こんなんされると思わないじゃん」
呟くように私は抗議すると、藤代はニカっと笑った。
「不意打ち?頭の中、俺のことばっかになるんじゃない?」
…もうずっとアンタのこと考えてたんだけど。とは言わずに、立てた膝頭に頭をうめた。
「バカじゃない?」
「うん、俺、バカみたい」
あははーとそう言い返す藤代の、顔は見えないけれど、いつものように笑ってるんだと思った。
「バカついでに言ってしまうと、俺ものことばっかり考えてる。
 さっき、男と屋上行くの見て、慌てて追っかけてしまった。
 しかも、のこと困らすつもりじゃなかったんだけどなー、身体が先に動いちゃうんだもん」
悔しいなぁ。
どうしよう。
そろそろ気づいてしまったじゃないか。
「…顔、耳も首も真っ赤」
そう指摘されて、私は益々顔が上げられなくなった。
藤代はからかっているように思える。何だか嬉しそうにくすくす笑って。
ああ、悔しい。悔しい。
「……バカは好きなんだけどね」
「へっ?」
小さく私が呟いた言葉を聞き取れなかったか、藤代は間抜けな声を出した。
私はすぐさま立ち上がり、カゴをつかむと足早に階段を降りる。
「ちょ、!今なんつった??」
「さあ?」
「なあ!」
やられてばっかじゃ悔しいから、私だってもう少し、黙っておこう。
ずっと藤代のこと考えてること、この気持ち、なんていうべきなのか。
気づいて、しまった、こと。
何にしろ、私はとても嬉しかった。
確かに藤代のこと、ちっとも意識したことは無かったけれど、
藤代がそういう風に私を想ってくれていたことが、とても嬉しかった。
そういうことも、しばらくは言わずにおこうかな。













とりあえず、了。

おそまつさまでした。
初めての夢です。
んん、だから何とも微妙感が漂ってる気がしないでもないんですけども。
藤代誠二が何とも掴みきれてないのでしょうか。
ていうか、一人称が、しかも男の子の一人称が難しい。
夢、難しい。
感想とってもほしいです…。







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