コンビニまで、その距離50センチ、、、、、
















「腰痛い。」
「は?」
「ね、ちょっと三上もんでくんない?」
「何で俺がもまなきゃなんねーんだよ!?」
「何でって、いつも一番あたしのことコキ使ってんの、あんたじゃん」

この女、アホだ。アホ。
俺は部室に置いてあったどこにでもあるパイプ椅子に座っているサッカー部マネージャーの姿を斜め上から見下ろす。
それは、この女の鈍感さのため、多少は冷たい目つきになっていたと思う。

部活を終え、少し自主練をしてから―つまり他の部員より遅れて部室に入ると、一人で机に項垂れていたが目に入り、思わず「具合でも悪いのか?」と声をかけたのは、俺。
だが、この部活後の部室という名の密室に二人きりという状況でよく『腰をもめ』などと言えるものだと返って呆れてしまう。
…よっぽど俺のことなんて男として意識していないってことだな。
俺の落胆ぶりは溜息となって出ていった。

「…溜息吐くほど嫌なら、別にいいけどさ」
「え?」
「すごい目も怖いし。天下の三上サンに恐れ多いことをお願いしてしまって、申し訳ございませんでした」
―可愛くねえヤツ!!!!
何で俺はこいつなんかのこと、好きなのか、ホントに疑問だ。
はうー、と机に項垂れたままひとつ唸って、息を吐いていた。
本当に腰が痛いみたいだ。
俺はまた溜息を吐くと、の後ろに回りこんで、腕を伸ばした。

「んっ。してくれ、るの?」
「しゃあなしだそ。コラ。何か見返りなきゃしねぇぞ」
の腰に触れる自分の手が震えないように、深く注意を払ってぎゅうっと、背中から押していく。
「ん、気持ちいい、よ」
「当たり前だ」
「ソコ、もちょっと、下」
「ここか?」
「ん、ソコソコ、あ、いい」
「これ終わったら、ジュースな」
「う、ん、」
から漏れる吐息交じりの声が何とも微妙な気分になる。
コイツ、ほんとにアホだ。
つうか、俺も、アホ?
ちょっとこんなコイツが可愛いって思えるんだから、アホだな。
むしろ、これは役得ってやつかもしれない。
俺の鼻先をくすぐるの髪の毛の良い香りを感じ、何だか微妙な気分3割増しだ。
動揺を隠すためか、俺の手には力がこもる。
「あ、痛、強い…」
「痛いほうが気持ちいいだろが」
「よくなって、きたかも…」










「藤代?何してるんだ?」
「わーーーーキャプテン!今だめっすだめっす!」
「何がだめなんだ?部室入らないのか?」
「それが、入れないんすよねー。他でやってくれりゃあいいのに」
「何?中で何してる?」
「今、三上先輩が先輩と…やってるみたいなんすよ!」
「…………それは困ったな」
「でしょ!?入れないんすよねー。着替えらんないっすよねー」
「いや、そんな問題じゃないぞ。が…大変だ」
「ええ、キャプテン!扉握ってますけど!?」
「開けるぞ」
「きゃー!キャプテンのエッチー!!」
「何してるーーーーーー!?」

バターン!
という勢いの良い音と共に、扉が壁に打ち付けられんほどの勢いで開かれた。
俺も、も驚いて扉の方に顔を向けると、そこには鬼のような形相をした渋沢と、手で顔を覆いつつ、目だけはこちらを向いている藤代の姿があったのだ。

「何って、マッサージしてもらってたんだけど…」
レギュラーにそんなことさせんなって?とは付け加え、あはっと笑った。
その次の瞬間、渋沢はがっくりと脱力したように怒らせていた肩を下げ、藤代はつまらなそうに口を尖らせた。
「はぁ、マッサージ」
「うん、腰痛くて痛くて。丁度三上が来たから、してもらってた」
「………」
何だ。何だ。
渋沢も、藤代も、そんな目で俺を見るな!
そんな同情なんかはやめてくれ!
俺は赤く紅潮してくる頬を片腕で押さえけ、慌ててロッカーの扉を開けた。
「着替えるから、はでてけよ!!!」
「ええ、まだちょっとしかしてない…」
「もう終いだボケ!」
「ええーもうー?」
先輩!良かったら俺がしますよ!何だったら今夜…」
「ふーじーしーろー」
「や!三上先輩、こわ!!」
「じゃあーまた明日ねー」
パタン。
今度は軽く音がして、扉が閉められた。
が出ていったことを確認し、俺は黙って着替え始める。
後ろに立つ二人の表情が想像でき、益々イライラ度が上昇する。
どいつもこいつも!
イライラしたまま俺は荒くロッカーを閉めて振り返ると、渋沢は肩に手を、ポン、と置く。
「ま、がんばれ」
「てめぇに言われたかねんだよ!!」
「三上先輩、先輩の腰さわさわしちゃて、ムラムラしなかったんすか〜?」
「藤代!てめぇもヘンなこと言うな!」
「だって、俺だったら、………が、……」
「言葉にすんなバカ代!」
俺は藤代の露骨な表現に眉をひそめながら、その頭を叩く。その勢いのまま扉に手をかける。
「三上せんぱいがぶったぁ」
「もー、俺は帰る!んじゃな!」
何故か笑っている渋沢と、ぶちぶちと文句を連ねる藤代を背に俺は部室を後にした。
そのまま真っ直ぐグラウンドの出入り口を目指すと、見慣れた人物の影が見える。
そのシルエットに、毎日見るそいつの鮮やかな水色のカバンを確認したとき、今度は声が聞こえた。
「みーかみー、待ってた」
その言葉に自然と頬が緩むのを感じ、慌てて引き上げる。
。何だよ。つーか、もうもまねーぞ」
「今日はいいよ。それより、そのお礼、買いにいこっか?」
俺を覗き込むように見上げる視線に俺は軽く目をそらす。
今、目が合うときっと普通の顔じゃいられないのは分かるから。
歩きながら、の向こうにある新緑の眩しい木々に目をやりながら、俺は答える。
「俺、ガリガリくんとぶどうジュースな」
「はあ?二つも?どっちかにしてよ!」
「いーや、俺にはその権利があるはずだ」
「あれっぽっちしかしてないのに…」
「いいから、コンビニ行くんだろ?お前おせーよ」
「遅いって何よ!アンタを待ってたんでしょーが!」
俺はの先を歩くことで、顔を合わせないようにした。
慌てて付いてくる足音に少しだけ歩調をゆるめてやる。
「あー、喉渇いた。ぶどうジュース二本な」
「じゃーガリガリくんはあきらめてよね」
「バカ言え。ガリガリくんプラス、だ」
「何て図々しい!!」
「どっちがだ」
肩をぺしぺしと叩かれ、大げさに痛がる真似をしてやった。

今は、これでも結構居心地いいんだよな。
意識なんてされなくとも、この瞬間をもうちょっとだけ、楽しんでやるか。
俺は鈍感で気が強くて、たまに可愛くて、俺の心を揺さぶって離れない女、を見下ろし、薄く、笑った。

いつか、コンビニまで手を繋いでいけるようになるのを瞼の奥で思いながら。














うふふ、むしろ三上が乙女でごめんなさい(笑
つうか、ホントヌルい夢でごめんなさい…
私の中では、描写はしておりませんが、ヒロインは確信犯ですから。
まさか年頃の乙女が何とも思っていないヤツに触ってほしくないでしょ?
と、書いてはみたものの、受け取りというか、むしろヒロイン像は読み手の方に造って頂きたいので、
作中では書きませんでした、が、私としては攻めな人。
奥様はどちらがお好みですか?







夢メニューへ
TOPへ