more







目が覚めると同時に薄ら吐き気に襲われた。横になっているのに頭は揺れているような感覚で、しかも脈打つ度に痛い。
「あ〜…のみすぎた〜…」
前にも一度だけこんな感覚になったのを覚えている。その前の日も飲み会で思いっきり飲んだ日だ。これもきっと同じ二日酔いだ。
「うー、今日、午後からでよかった…」
右向きに寝ていた体勢からうつぶせになろうと寝返りを打ったとき、何か温かいものに手が触れた。
というか、隣に人が寝ていることにようやく気づいた。
「え?」
未だ眠りの世界にいる隣の人物は、同じクラスの森長だった。
布団から出ている彼の肩は素肌のそれ。慌てて自分を見ると、思いっきりすっぱだか。余計に眩暈がする。私は思い出せない記憶を辿ろうと、重い頭を上げて部屋の中を見回した。
いつもどおりの自分の部屋。ただ、カーペットの上にはいくつもビールやチューハイを開けた缶が点在しているし、私の好きなビーフジャーキーの空袋もある。なぜか私の好まないシュークリームの袋。そして、私のと、彼のものと思しき、衣服…。
そーっとベッドを抜け出して、いつものスウェットを棚から引っ張り出して、着る。そのままこたつ机の前に座りこむと、目の前に置いてあった飲みかけのウーロン茶をあおった。ぬるい。ただ喉は酷く渇いていたので、残りを一気に飲み干した。

…そうだ。何となく、思い出してきた。
昨日はサークルの飲み会だった。場所はいつもの居酒屋。
その中で彼は実家住まいだということを、話の流れから聞いたんだ。

「えー、まじで?私の実家もその辺だよ」
「なのに一人暮らし?贅沢すぎる!」
「だって交通の便悪すぎだし。あそこ。今の部屋はいいよー。学校めっちゃ近いもん」
「いいな。あ、つうか、もう終電じゃん。やべ」
「もう帰るの?じゃあ同郷のよしみで泊めたげるよ」
そう笑いながら言ったとき、森長はぽかん、としていたっけ。

そして飲みなおそうとか何とか言って、コンビニでお酒やらおつまみを買い込んだのは覚えている。
そんなことより、私にはそういうつもりはまったく無かった。向こうだってそうに違いない。まぁ普通は男を部屋に泊めたらそうはなるだろうって期待もしたり、されたりするんだろうけれど、森長にはそういうの感じられなかった。…なのに何で今こういう状況になってるの?肝心なソコの記憶はすっぽりと抜け落ちている。なのに、切れ切れで思い出す情事の記憶の欠片がある。そしてこの状況。したのは確実。
それにしても、何となく戻った記憶によれば、私が誘ったんじゃなかろうか。
泊めたげるって言ったのは別に冗談でもない。けど、それでのこのこ付いてくる男もどうなの?
頭が動き始めた私に対して、今も惰眠を貪る彼を見る。
こんな男だとは思ってなかった。何とも思ってない人とセックスできる男だとは。
…何故、私は今がっかりしているのだろう。
彼の肩は、愛嬌のある顔が乗っかっているとは思えない程、なかなかがっちりしている。意外。
いい身体なのはサッカーをしているらしいから当たり前なのかもしれないけれど、私はその肩が小さく動くのを見つめていた。
バカみたい。情が移るとはよく言ったものだ。
それとも私は、前からこの人のこと、好きだったのか?
森長が目を覚まして、あからさまに「無かったこと」にしたそうな態度に出たらどうしよう。
あるいは都合の良いときに部屋に泊まりにきて、身体だけの関係になったり…。
でもそんなことは、きっと無いだろうと思わさせるものが今までの森長との付き合いには、あると思う。
いや、そう信じたい。
ぼやっと森長を見つめていると、目が覚めたらしい森長が身をよじって、私が見ていることに気づいた。
さて、第一声は何だろう、と私は小さく笑いかける。
「……なに、自分だけ服きてんの…?」
「だって私の部屋だもん」
「かんけいないとおもう…」
寝起きのかすれた声で森長が言った。
照れているのか、ちっとも顔を合わせようとはしない。そのままベッドに突っ伏している。
やばい、かわいい、と思ってしまった。
この感じ、一夜限りじゃなくなりそうで、無性に嬉しくなったので声をかけた。
「朝ごはん、作ろうか?」













飲み会の後って、なんとなく人肌恋しくなっちゃうもんね。



森長誕メニューへ
夢メニューへ
TOPへ