お そ ろ い の 傘








ぴちゃぴちゃぴちゃ。
私のスニーカーのその隙間から水が入り、靴下を濡らした。
わざと水溜りを歩く私を見て、
「ほんっとガキだな」
と目を細めて、三上は言った。
私もそう思うけれど、浮き立つ気持ちを抑え切れないのだもの。
「だって楽しいじゃん」
ただ単にコンビニへ買出しに行くだけなのだけど、密かに好きな三上と一緒に歩けるってだけで、私は幸せ者。
「つうか、お前の傘、破れてんだけど」
「え?うそ」
慌てて真上を見上げると、そこには骨組みの線にそって5センチ程の裂け目ができ、隙間からはどんより曇り空が覗いていた。
幸い、雨が入り込む程広がってはいなかったのだけど、何だか急にテンションは下がる。
ふと隣の傘の中を見ると、笑いを堪えきれず、身体を折り曲げている三上が見えた。
私は下がったテンションのまま、三上を蹴る真似をする。
「なに、笑ってんのよー」
「だって傘破れてるヤツ初めて見た…」
「笑いすぎなんだけど!」
「バカっぺぇなー!」
笑い続ける三上を目の当たりにし、私は水溜りの水を蹴り上げて、三上へ吹っかけた。
ちっとも私の気持ちなんて分かってないんだから。
私は恥ずかしい気持ちと悔しい気持ちが入り混じったようなムシャクシャした気分のにじみ出た歩き方で三上の先をずんずん歩いた。
まぁ、ね、私の気持ちなんて分かるはずもないんだろうけど。
今日コンビニに買出しに行くのも、三上がじゃんけんで負けてたのを見たから、私が手伝うって言い出したのに。
三上は何も買ってやらねーぞ、なんて言ってたし。
見当違いもいい所。
三上にとっちゃあ、私なんか女としても見ていないんだろうな。
そんなことを考えながら、少し俯き加減で歩いていた私は、ふっと影が差した感触に勢い良く振り向いた。
「……みかみ?」
「濡れるだろ?」
三上は私に自分の傘を差し出してくれていた。
そのせいで、差し出す傘と反対側の方の左の肩がちょっと濡れていた。ブレザーは水を少し弾いて、少し染み込ませて色を変えている。
「一応この傘、させないことはなさそうなんだけど…」
「でもその内傘の意味無い傘になっちまうから、早くたたんじまえよ」
そうぶっきらぼうに三上は言うと、私の顔を真っ直ぐに見た。
その顔がいやに真剣で、私はどきどきする。
同じ傘という密室に近いものの中で、間近でそんな顔を見てしまうと、私は平静を装えなくなってしまう。
それを振り払うかのように、私はガサツに傘をたたんだ。
水滴が彼の顔にも飛び跳ね、三上は片目をつぶる。
「あ、ごめんっ」
「いいから、ちゃんと歩けよ。水溜りとか、入るなよ」
「う、うん」
「何だよ、バカに素直だな」
三上はふふんと鼻を鳴らしていた、んだと思う。
私はそれを見ることもままならない程、緊張していた。
どうしよう。これからコンビニに行って、帰りも相合傘で帰るんだよね。私、普通の顔で帰られるのかな。
そうっと三上の横顔を盗み見ると、いつもと変わらない表情の中、ほのかに頬の色づきを見て、私は余計に体温が上がるのを感じた。



















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