All For You










 WestBeachに私はいた。いつものボックス席の定位置に座って、持ってきたアイスティーのペットボトルをテーブルに置く。ルカちゃんも私の斜向かいのいつもの場所に腰掛けると、テーブルの上にはどん、と白いホーロー鍋を置いた。
「おいしかった?」
「うん、うまかった。ね。また作って」
 ルー一箱使って出来たカレーは次の日の朝にはペロリとなくなったという。さすが高校生男子が二人もいるとそうなるのか、と私はキレイに洗って戻されたその鍋を見て思った。
 みよからは「まるで、餌付け」と言われたけれど、私はこうしてときたま、幼馴染兄弟が二人で住む家にご飯を差し入れている。ふたりの食生活を見かねて、と言えば聞こえがいいかもしれないが、実のところはみよが言うこととそう変わりはしないかもしれない。

「今回はシーフードカレーだったけど、どうだった?」
「うーん、そういえばコウはビーフじゃないって言ってたな。俺はどっちも好きだけど」
「それはどっちでもいいってこと?」
「まぁ、そうとも言う、かな」

 ルカちゃんはそう言うと笑った。そしてソファーに大きく背を投げ出す。波の音が遠く聞こえた。
(ルカちゃんの好みを聞きたいんだけどな……)
 コウくんの声が耳の奥で蘇るような気がした。
『アイツにはハッキリがつんと聞かないと返事しねぇぞ』

 私の幼馴染であり、そして想い人でもある彼、ルカちゃんは勘が良いようで、鈍いところもある。今のようなはぐらかし方は逆に気付いてやっているのだろうか、とすら思ってしまうところだった。
 魚は好んで食べているようだから、シーフードにしてみたけれど、そのものずばりの焼き魚や煮魚のほうがいいのだろうか。そうなるとここで作らないといけない。なんとなくそこまでは差し出がましい気がして、このWestBeachのキッチンにはまだ立ったことがなかった。
 
「今度は何がいいかなぁ」
「ん?何でもいいよ。ちゃんの作るごはんなら」
「……」

 本当にそう思ってくれているのは分かるけれど。でも私は欲張りなのだろうか、それ以上の言外の意味を勝手に求めてしまう。
 それって期待してもいいのかなぁ。
 斜め前で頬杖をついてこちらを見ているルカちゃんを私はなんとなく見つめ返した。

「何?」
 ふと目を逸らされる。私が真意を知りたいと思って彼のことを見つめると、こうして視線を外されるのが常だ。冗談交じりに私に気を許しているような行動や言葉をくれるルカちゃんの反応が気になるのはこういう点からだった。
「ううん、ルカちゃんは何作ったら喜んでくれるのかなって思って」

 私もうつむきながら言う。もしかしたらふてくされているように見えるかもしれない。ちらっと彼の反応を窺うと、ルカちゃんは片手で口を覆っていた。
「……なに?どうかした?」
「いや、お前さ、それかなり……いや、いいや」
 そう言うとルカちゃんは軽く手を振った。何がいいのかは分からないけれど、首も横に振っている様子の彼を私は見守った。何か変なことを言ったのかもしれないけれど、突っ込むことができる雰囲気ではなかった。

「……じゃあ俺、肉じゃが食べたい」
「ええ?肉じゃが?」
「うん。何かダイヒョーテキ家庭の味、なんだろ?家の肉じゃが食べたい」
「ふうん、分かった。頑張る」

 家庭の味が肉じゃがっていうのは古典的すぎて古い気がしたけれど、確かに母の作る肉じゃがは絶品だ。私はそれを思い返して、今度作り方を習おうと心に決める。
 開け放した窓から潮の香りが漂ってくる。この人の奥さんにいつかなれたらいいのに。そうほんのりと浮かんだ淡い期待を押し込むように、私はその湿っぽい風を大きく吸い込んだ。





















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