橋の下のアルパカ デイジーちゃんは、はばたき小学校に通う2年生です。最近、遠足で牧場に行きました。 牧場にはたくさんの動物がいて、デイジーちゃんはすごくわくわくしました。デイジーちゃんは動物が大好きだったのです。 「かいぬし、ぼしゅう、ちゅう」 デイジーちゃんは看板を声に出して読みました。そこは飼い主を探している動物の柵の前。デイジーちゃんはその中の一匹と目が合いました。 デイジーちゃんをじっと見つめていたのは、むらさき色のアルパカです。 前髪のところがぴょん、とはねていて、デイジーちゃんも一目で好きになりました。アルパカだってデイジーちゃんを一目見て、好きになったのです。二人はデイジーちゃんの先生が呼びにくるまで、黙って見つめあっていたのでした。 デイジーちゃんはおうちに帰ると、すぐにお母さんに言いました。 「わたし、アルパカが飼いたいの」 でもお母さんはとってもむずかしい顔でこう言います。 「お母さんな、アルパカアレルギーねん。かんにんやけど、アルパカは飼われへん。ごめんなぁ」 いつも優しいお母さんがそう言うなら、しかたがありません。 デイジーちゃんはがっかりです。 つぎの日は雨ふりでした。デイジーちゃんがお気にいりの傘をさして学校から帰っていると、とつぜん目の前に黒いものが飛び出しました。 びっくりしたデイジーちゃんは傘を落としてしまいました。 車が来たのかと思って、とびのいたのです。 でも、それは車じゃありませんでした。 「アルパカさん……?」 デイジーちゃんが声をかけると、あのむらさき色のアルパカが振り向きました。 前髪も、体も、ぜんぶ雨でびしょびしょです。 「たいへん!はやく雨宿りできるところにいこう」 デイジーちゃんが傘を拾ってさしかけてやると、まるでありがとう、と言うように「ぷー」と鳴きました。 デイジーちゃんとアルパカは橋の下へかくれました。デイジーちゃんはアルパカが牧場から逃げてきたと思っていたので、誰にもみつからないようにこの場所を選んだのです。 屋根の下でアルパカはぶるぶるっと体をゆらして、お水をはねさせました。デイジーちゃんはうーん、と何か考えています。 「アルパカさん、ほんとうはおうちに呼びたいのだけれど、お母さんがアルパカアレルギーなの。ごめんなさい。でも、毎日ここに会いに来るわ」 「ぷー」 またアルパカは嬉しそうに鳴きました。デイジーちゃんも嬉しくなって、首をなでてあげます。 「こんなところに、白いはんてんがあるのね。まるで雪みたい」 アルパカのおなかには白くて丸い模様がたくさんありました。 「そうだ。あなたの名前はユキくんよ!雪の模様があるから、ユキくん」 すると、またアルパカのユキくんはうなずくように首を揺らすと、「ぷー」と鳴きました。 それから毎日、デイジーちゃんはユキくんに会いにいきました。 おやつのてりうやウーロン茶を持っていくと、ユキくんはとても喜びました。デイジーちゃんはいつも「飼ってあげられなくてごめんね」と言います。 でも、ユキくんは謝ってなんてほしくないので、しずかに首を振って答えます。すると、デイジーちゃんはふわふわのユキくんの首をなでます。 「優しいね。ユキくん」 ユキくんはデイジーちゃんの方が優しいと思っているので、それを伝えたくてデイジーちゃんのやわらかいほほに軽くキスをします。 とっても楽しい時間でした。 ある日の朝、デイジーちゃんが目を覚ますと、外からびゅうびゅうと聞こえてきました。 お母さんが、 「今日は台風で学校はお休みやって。おうちでいいこに遊んでような」 と言いました。 デイジーちゃんはすぐにユキくんのことが心配になりました。 朝ごはんを食べて、しばらく本を読んでいても、やっぱりユキくんのことを考えてしまいます。 「雨でぬれて、さむくてふるえていたらどうしよう」 折り紙をしていても、ユキくんのことが頭からはなれません。 「風にとばされちゃったらどうしよう」 デイジーちゃんはランドセルから雨がっぱを取り出すと お母さんが止めるのも聞かないでおうちを飛び出しました。 外はデイジーちゃんが今まで見たこともない雨のふり方でした。横に向かってふる雨を初めて見たのですが、そんなことにかまってはいれません。デイジーちゃんはいつもの橋の下まで一生けんめい走ります。 橋の近くまで行くと、デイジーちゃんはとてもびっくりしました。 いつもよりも川が太くなって、お水もたくさんです。 「ユキくーん!どこなのー」 のどをふりしぼって大きい声で呼びますが、可愛い鳴き声はかえってきません。 デイジーちゃんは泣きそうになって川に下りる階段に近づきました。 「ぷー」 横の方からいつも聞いている声が聞こえて、デイジーちゃんはふりむきました。 「あっ」 そのとき、足をすべらせて、デイジーちゃんは川にぼちゃーんと落ちてしまったのです。 ユキくんは高いところに自分で上っていたのですが、デイジーちゃんを見つけて、急いで川に入りました。 デイジーちゃんはたくさんのお水に足を取られて、おぼれています。ユキくんはひっしになって手と足を動かしました。 「苦しいよ。たすけて」 息ができなくて、デイジーちゃんはぎゅっと目を閉じました。 つぎにデイジーちゃんが目を覚ましたのは、びちゃびちゃの草の上でした。 心配そうに顔をのぞいているユキくんがいます。 「よかった。ユキくんがぶじだった」 ユキくんの首にデイジーちゃんはぎゅっとだきつくと、泣き出してしまいました。 ユキくんも答えるように、ぽろぽろと泣いていました。 「デイジー。バカなことしちゃだめだろう」 突然、デイジーちゃんは後ろから、頭をとん、とたたかれました。お父さんのとくいなチョップだとすぐに分かります。デイジーちゃんは慌てて振り向きました。 「お父さん、ごめんなさい。わたし、ユキくんが心配だったの」 泣きながらデイジーちゃんはあやまりました。 お父さんはチョップをした大きな手でデイジーちゃんをよしよし、となでてくれました。 「優しい子だね。それに、ユキくんがデイジーを助けたんだよ」 デイジーちゃんはしがみついていたユキくんを見ました。 まるで、そうだよ、と言うようにユキくんがうなずきます。 「ユキくんの面倒は、デイジーが見れるかな。そうだったら、お父さん、飼ってもいいと思うよ」 デイジーちゃんは大きな目を開いて、お父さんをじっと見ました。お父さんはニコニコ笑顔でタオルを渡してくれました。 「ありがとう。お父さんもユキくんも、大好き」 デイジーちゃんはタオルでユキくんと、ついでに自分のこともくるくるとふきました。雨がまだまだたくさんふっていたけれど、デイジーちゃんの心の中はぽっかぽかになりました。 |