よくこのユニオンには変わった人たちが訪ねてくる。けれどもそういう人たちは一様に荒っぽい。そんな中でも特殊なのは、遺跡の門<ルーインズ・ゲート>の学者さんたちぐらいのものだったけれども、今回のお客さんはそれとは違った風変わりさがあった。 「ドン・ホワイトホースに話、通してくんねぇかな」 「申し訳ありません。ドンはただいま外出中です」 ドンへの面会を求めるパーティだったが、いかにもギルド、という雰囲気ではない。リーダーらしき長身の男性はとても美形だったけれども、見覚えは無かった。他のメンバーも幼い男の子や無愛想な少女と、貴族のようなお嬢さんで、まったくこのダングレストでは見かけたことのないような面々だった。 「お姉さん、新しい人だね。マーヤさんは?」 「今日はお休みです。あなたはよく出入りしてるの?」 「うん、まぁね」 じっと私が見ていることに気付いたのか、男の子に話しかけられた。見かけよりも随分としっかりした話し方だ。私よりもよっぽど場慣れしているみたい。きらきらとした瞳が眩しいほどだ。そういえばたまに幼い子供もギルドの一員として出入りしているのを見かけるけれど、彼には見覚えはなかった。 「カロル、行くぞ」 カロル、と呼ばれた少年は振り返ると、返事をして、また私に向き直った。 「じゃあ、またくるね」 その笑顔はとても溌剌としていて、可愛らしい。 私も笑って手を振り返した。気持ちの良い集団だったなぁ、とユニオンを後にする背中を見送る。不思議と、その男性の長い黒髪に目を惹かれた。 よく煮込んだ豚の角煮に箸を入れると、すっと柔らかい。ひとくち食べて、成功した。と微笑む。向いに座っていたレイヴンも笑っていた。 「これ、おいしく出来てるじゃない。うまい」 「へへ、でしょ。私も今自分でそう思ってたとこ」 「自分で言ってたら世話ないやね」 思わず二人で顔を見合わせて笑った。 ここはレイヴンの部屋だった。今日は久々に自炊をしてみたので、差し入れにきたら、一緒に食べようと誘われて、こうして夕食を共にしている。たまにご飯を作ると、こうして一緒に食べることがあった。最近は割と忙しく各地を飛び回っている彼なので、なかなか話もできない。今日は久しぶりに色々と話が弾む。 「今日、ユニオンに可愛いお客さんが来たよ」 「ふうん?女の子?」 期待したような瞳をさせるレイヴンに冷たい視線を送り、私は答える。 「女の子もいたけど、少年って感じの。たまに男の子も見かけるけど、今日の子は溌剌として可愛かったなぁ」 「やだーちゃんってば年下趣味?」 「違うよ。何でもそういう方に結び付けないでくれる?」 彼は楽しそうに笑った。 「キレイな顔のお兄さんと、溌剌とした少年と、可愛い女の子二人。ちょっと珍しい取り合わせだから覚えてる」 「あ」 「あ?」 ぽとん、と彼は角煮を箸から取り落とした。私は顔を見上げると、何故だか彼は「しまった」という顔をしていた。 「知ってるの?」 「うーん。まあ、知っているといえば知らなくもないかなって感じ」 「……知ってる、でいいんじゃないのかな、それは」 私はごはんを一口食べた。 一拍置いて、レイヴンはワインを口に含む。 「そういえば、俺様、明日からまた出張なんだ」 「あ、そうなんだ。最近多いね。気をつけていってらっしゃい」 「うん……。ねえ、ちゃん?」 箸を止めて顔を上げると、目の前の彼は意味ありげにニヤっと笑って、こう言った。 「何かこうしてると、俺たち夫婦みたいだわね」 「え……」 「な、なーんちゃって!そんな顔しなくてもいいじゃない!」 ……どんな顔になってしまったのだろう。 「冗談言ってごめんね」 どう返事してよいか分からなくて、ただ困ったような笑顔しか返せない。私は首を振った。 なぜなら、彼はちっとも、悪くなんかないのだから。 その後、私は食べ終わると、急いで片付けて引き上げてしまった。 彼にとっては何気ない、冗談に含まれるような話だったのだろうけれど、私は勝手ながらも胸の奥が痛くなってしまった。 慣れつつある、ここの暮らしに身を置いたままでいる、不安な気持ち。 そのどうしようもない焦燥感。いても立ってもいられなくなるような感覚だ。大声で声を出し続けてみたくなるやるせないような気持ち。 もちろん、レイヴンのことが嫌いな訳ではない。感謝こそすれ、嫌うなんてとんでもない。ただ、私が普通にこの世界に生を受けた女の子だったらば、このセリフに喜んだり、逆に怒ってみたり、色々反応すべきことがあったと思う。 でも、私にはなぜか言い様のしれない恐れしか感じられなかったのだ。 |