俺のつむじあの子のつむじ










「やっぱりここだった」
目の前に広がるただただ青い世界にさっと影が出る。
逆光でよく見えないが、もちろん誰かは分かる。今の今まで頭の中にいた娘だ。
、どうかした?」
「どうかした?じゃないよ、ルカのクラスの先生が探してたよ」
「へー、なんでだろ」
心当たりはありすぎる。そのどれで怒られようと俺はどうでも良かった。ただ今は、まどろんでいたかった。

は隣のクラスにいる、いわゆる俺の幼馴染だ。
その関係の延長線でかこうしてお節介を焼いてくれている。
今日もわざわざ俺を探しにきたような口ぶりだった。
「だいたい今日みたいに天気のいいぽかぽかした日は屋上で寝てると思った」
声音に笑いを潜ませて、小さく呟いている。
そのはスカートの裾を気にしながら、俺が寝そべる隣に腰を下ろした。
「ほんと、いい天気ー」
伸びをしながらが言った。俺は半身を起こして言う。
「じゃあさ、今度の日曜、牧場いかね?」
「あ!いいね、のんびりしにいこう!じゃあコウ君も誘って、お弁当作っていこうよ!」
楽しそうなの返事に俺はたまらずむっとしてしまう。
誘ったのは俺なのに、どうしてここでコウの名前が出るんだか。
俺の表情を覗きこんだは眉を寄せた。
「ルカはお弁当嫌?どっか食べにいったほうが良かった?」
そうじゃないだろ、空気読めよ!そこひっかかるところじゃねえだろ。
と言いたいのを堪えて、口角を上げた。
「いいや、そうじゃないけど、二人じゃだめ?」
「えっ?」
の目が丸くなった。
元々大きな目が見開かれてまっすぐ俺の目を覗く。
「だめ?」
もう一度、聞く。小首をかしげて。
「だめじゃないけど…」
真意を図りかねているようだ。答えはいたってシンプルなのに、気づいてないんだろうか。気づいてないフリ?
「たまにはさ、二人でいこ。こないだ三人で出かけたときもさ、メールしたじゃん?次は二人で行こうかって」
「う、ん。そうだったね」
は曖昧に笑った。

多分、気づいているんだ。
このまま三人でいたって何も進展しやしない。ずうっと三人で仲良く過ごしていかれるのか。そんなのすぐに壊れる。現にもう、綻びが見えているんだから。
先週の日曜、コウがこっそり出かけていたのを知ってる。
俺も敢えて「バイトに行くのか?」とも尋ねなかった。
きっとと二人で会っていたんだろうと思っていたから。
こそこそされるのは嫌だ。どうせだったら堂々と出かければいいのに。
このままお互いがこそこそを取り合ったらどうするんだろう。
隣に腰掛ける当の本人のつむじを見下ろす。
決めるのはこいつ自身だから。
俺のほうをたくさん向いてくれるようにすればいいだけの話だ。
きゅっとそのつむじを軽く押す。
「いたっ、ちょっとー便秘になるじゃん!」
「ははっそんなの迷信じゃん」
俺のつむじを押し返してこようとするので、反射的に腕をつかんだ。
細い腕だなぁ。
「そう簡単にはやられるものか!」
「ルカも便秘にしてやる!」
「コラ、女の子が何度も便秘なんて言うもんじゃありません!」
反対の手でも頭上を狙おうとするのでそちらの腕も捕まえる。見合っているような状態なのにこの子は頬を染める、とか顔が近いのを気にする、とかいう素振りもない。まったくない。無邪気につむじを狙っている。
何だか脱力した。
するっと俺の手から逃れたはそのまま俺のつむじを三回、強く押した。
「いてぇ」
「これでルカも…えっと、お通じ通行止め!」
口を大きく開けて、が笑った。
馬鹿だなぁ。
ああ、俺が馬鹿なのか。
これが好きな男にする態度じゃないもんな。可笑しい。
きっととは全然違う意味で、俺も腹をかかえて笑った。


















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