ありがとうございます。励みになります!!
それでは、連載とは全く関係ないお話ではありますが、お楽しみください。
(大分本編とは違い、ゆる〜い感じでお送りしております。もちろんクリフト×女勇者です)








ほんのたまにのことだが、息抜きをかねてエンドールに来ることがある。
この町はカジノもあるし、何よりパーティ内で唯一家庭を持っているトルネコの家がある故に。
いつも寂しい思いをさせているだろう、その妻と子供のところへトルネコを帰してやりたいと思うのは皆同じだ。
ついでにカジノで遊んだり、酒場で楽しむことをするメンバーもいるようだが、基本的に酒もしなければ賭け事もしないクリフトは暇な時間を宿で過ごすか、町を歩くかしていた。
こういった大きな街の喧騒は嫌いではない。
世界でも大規模な町の一つであるエンドールには、色んな地方から商人たちも集まってくる。
その市場で各地の様々なものを見るのも結構愉しいことだった。
旅をするのは、自分の性分にはもしや合っているのだろうか、と思いながら、露店を見回っていたときだった。
クリフトはふと、足を止めた。
いつもは流し見て終わってしまう、自分には無縁のアクセサリーの類だったが、それはとても彼女に良く似合うだろう、と目を惹いたのだ。
吸い込まれるような深い蒼、紺碧の石のついた小さなピアス。
エッダの瞳の色によく似ている。
思わず腰を落として見入っていると、露店の主人が気さくに声をかけた。
「男前のおにいさん、彼女にプレゼントならサービスしとくよ?」
「か、か彼女って!いや、あの、うーん…」
からかわれたことにも気づかず、クリフトは頭を捻った。
大した金額ではない。ただ、こういったものを理由も無く渡すのは、はたまたどうなのだろう。どう思われるだろう。迷惑になるだろうか?
あれやこれやと考えながら、結局手に取って見てみると、それは益々美しくきらめいて、エッダの瞳を思い起こさせる。
「よし、ご主人、これ頂きます」
「はい!毎度ありー。プレゼントなら包装しようか?」
気の良さそうな主人の笑顔につられ、クリフトは頬を染めながら、お願いします、と軽く頭を下げた。

宿について、さて、とクリフトは途方に暮れた。
どう言って渡せば良いのだろう。
『ずっと同じピアスのようだったので、たまには違うのも良いかな、と思って』
『あなたの瞳の色にそっくりでしたので、つい買ってしまって』
『似合うと思ったので』
どう言っても予想されるエッダの顔は同じ困り顔だ。
すんなり貰ってもらうには、どうしたら。
そう思案しながら部屋に戻ろうと階段を上っていたとき、偶然にも上から降りてきたのは、エッダ本人だった。
「あら、クリフト、早いのね。もう部屋に?」
「いえ、あ、エッダさんは、えっと、どちらへ?」
「私?私は今日は宿の外でご飯でも食べようかなぁと思って」
ここだ。それだ。いまだ。クリフトは慌てて言った。
「それ、ご一緒させてもらってもよろしいですか?」
気持ち、いつもよりも意気込んでいるクリフトの様子にエッダは半身引きながらも、「じゃあ一緒に」と言った。
これは所謂デートというべきもの。
それならば贈り物があったとしても、良いんじゃないか。
クリフトは今上ってきたばかりの段を一つ一つ、また下り始めた。

適当な食堂を見つけて席にはついたが、お互い何を話していいものやら分からない、といった状況で、沈黙が続いた。
店内は夕飯どきということもあり、割と込み合っていた。
二人がけ用の小さめの机に向かい合って座って、クリフトはしばしその幸せな空気に酔った。
「…何か、話でもあったりするの?」
出された水をこくんと音を立てて飲みながら、エッダは尋ねた。
何ともエッダの顔は不思議そうである。
クリフトはポケットの中のピアスに触れながら、切り出そうか、今じゃないだろう、とあれやこれや思いを巡らせつつ答える。
「話という訳では無いのですが、実は」
これといって話題も無いので、クリフトはもう渡してしまおう、と机の上に小さな袋を取り出した。
そんなに仰々しくつつまないでくれ、との彼の注文通りに、淡い薄桃色の小さな袋にくるりと二重に、袋よりも濃い桃色のリボンがかけられているだけだ。
それを机の真ん中に置くと、エッダは益々意味が分からない、といったふうに首を少し傾げた。
「どうしたの?」
「あ、あの、今日、市場を歩いていたところ、とても美しいものを見つけまして、良かったらエッダさんに貰って頂けないかと…」
語尾が段々と尻つぼみになってゆくクリフトの言葉にエッダは目を幾度か瞬かせて、改めてクリフトの顔を見据えてくる。
真っ直ぐエッダの顔が見れないクリフトは、例の袋に目を留めながら、それを差し出した。
恐る恐る、というふうにエッダも手をのばす。
「じゃあ、開けてみても、いい?」
はっきりとした発音のその言葉に、クリフトは首を縦に二、三度振り、どうぞどうぞと付け加えた。
エッダの細い指がリボンを絡め、そして解いてゆく様を眺め、クリフトの胸の鼓動は最高潮に高鳴った。
(どうか、気に入ってもらえますように…!)
袋を開けたエッダは少しその瞳を見開き、中に入っていた小降りのピアスを手に取ると、それをうっとりとした風に眺めた。
「…綺麗…」
その表情はまさに今まではあまり見ることのできなかった『女の子』のものであったので、クリフトは胸にじんわりと幸福感が広がるのを感じる。
温かい気持ちと良い高揚感の中、クリフトは石に見入るエッダを見つめていると、急にその彼女がクリフトの顔を見上げたので、心臓が跳ね上がった。
「どうしてこれを、私に?」
そこが一番の本音の出しどころだ、とクリフトは思った。
様々に考えたセリフを言おうと思うのだが、なかなか言葉にはならない。
「え…」
頬が熱い。多分顔が真っ赤だ。エッダはそんな自分を見てどう思っているのだろう。
じっと見つめられ、余計に熱くなる頬に唇も重たくなる気がする。
「エッダさんに…」
辛抱強く、言葉の先を待ってくれているエッダに、早く伝えたい。
「エッダさんに似合うと思ったところ、気づいたら買っていたのです…」
本音どころかこれじゃあ何も伝わらないじゃないか。
搾り出すように、理由を伝えると、脱力したようにクリフトは肩を落とす。
エッダの方はと言えば、その言葉の意味を深くは読み取っていないのか、また大きな瞳を一つ瞬かせると、
「あ、ありがとう」
そう、小さく言った。

それを聞きはしたものの、クリフトは肩を落としたままだったので、エッダの表情までは見ていなかった。
エッダは頬をほんのりと赤く染めていたのだが、自分のことで精一杯だったクリフトにはそれを拝む余裕は無かったらしい。
俯く二人の元に、食事が運ばれてきた。










こちらはクリフト編です。もう一つ、エッダ編には少しだけ続きがあります。

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