同じクラスの。 初対面から何だか女って感じがしなくて、仲良くなれそうだ、と直感した。 その直感はこうも告げた。 俺に似てるな、と。 始めはそう思ったんだ。 けれど、そうして付き合ってゆくうちにだんだんと違うところが見えてくる。 ああ、女の子なんだなって、理解した。 そ れ は だ ん だ ん と
(3) 夏も本格的に厳しくなってきた頃、まだエアコンが入らない午前中の教室で首元を下敷きで扇ぎながら、俺はあいつらが言っているのを聞いていた。 「はマジで女じゃねぇなー」 「はは、見た目はともかく、中身な。全然女っぽくねぇし」 あーあ、こいつら、全然分かってねぇなぁ。 「な、誠二もそう思わね?」 あいつらは後ろの席に座っていた俺に向かってぐいっと身体ごと向けて、話しかけてきた。 「ええ?俺は思わないけど」 そう、俺が言うと、周りのヤツらはええー!と大げさに驚く。 いやー、ほんっと、分かってねぇなぁ。 「だってさ、女の子はみーんな花みたいなもんじゃん?みんな可愛くってキレイ」 波風なんかが立たないようにそう言ったのだけれど、逆に皆、口をぽかんと開けて俺を見ている。 …何かまずいこと言ったっけ。 「誠二…お前だから言える言葉だな…」 皆何だか変な頷き方をしている。 俺はそれを見て、隣のタクの目線に気づき、そちらを向けば、タクは微妙に笑いながら俺を見ていた。 「……何だよタク」 「…いや、誠二らしいな、と」 タクはたまに、こうして何でも分かってるみたいな顔をして俺を見るんだ。 それが何だか面白くなくて俺はトイレへ立った。 教室を出ると、休み時間特有のこ煩い歓声が響いていて、思わず顔をしかめる。何だか、イライラするな。 その廊下で偶然、今さっき話題の中心人物だったとすれ違った。 ホントに偶然、というか。 目が合った。 「…藤代、何ー?何か、ぶすってしてんね」 「ん?そう?」 「だって藤代顔に出やすいっしょ!」 あははーとは朗らかに笑ってそのまま教室へと入っていった。 残された俺は益々何だか面白くない。 お前も原因の一つで俺が不機嫌なんだけどー。 …は、すごくああいうサバサバした感じで、クラスのムードメーカーって感じなのに、意外にも気配りがすごくできる女の子だ。 そこが女の子だなぁ、と思う。 俺とは違う所。 けれども、何故か俺には気遣い無いみたいだなー。と、何となく凹む。 そういうのはここ最近だ。 俺はトイレから出ると真っ直ぐには教室へ戻らずに屋上へと向かった。 そこはサッカー部のたまり場だから、あまり他の子は来ない。 何となく、今教室には戻りたくない。 俺はドアを後ろ手で閉めると、夏の暑い空気をむん、と感じて思わずまた、顔をしかめた。 すると、あるとは思っていなかったものが目に留まる。 「……何でいんの?」 「は?だめなの?」 俺は視界の端に映った黒いスカートの持ち主の顔を見て、しかめっ面のまま言ってしまった。 何だよ。一人で考えたい気分だったっつのに。 そいつは、山田ユカ。同じクラスの女の子だ。 「山田、何でここに?」 もう一度、俺は同じ質問をする。暗にさっきの山田の返しに対する肯定だ。 山田は「別にここはサッカー部の部室じゃないでしょ」ともっともな返事を返してきた。 俺はそれには何も返さずに、少し距離を置いてフェンスにもたれかかった。 直射日光が熱い。なのに、隣にいる山田は涼しげな顔をして俺に話しかけてきた。 「藤代、さぁ、に何か言った?」 突然のその言葉の意味に俺はしばし戸惑う。 ためて、ためて、 「え?」 とだけ返す。 こいつ、と仲良かったんだっけ。思い起こしてみれば、確か良かったような気もするけれど、はクラス全員と大抵仲が良さそうだしなぁ。 山田は変わらず、何とも思ってないような顔をして続ける。 「、何かちょっと変なのよ。最近。…ホラ花火したじゃん?あの頃から」 「あー…」 その言葉には俺も思い当たった。 俺に対して冷たくなったというか、そう感じ始めたのはそのぐらいだったと思う。 何か、したかな。 記憶を辿ると思いつくのは、あの買出しに行ったときなのだろうか。 …でも何を言ったっけかな。すぐには思い出せない。 ただ、それしかないよなぁ。とは思うけど。 「藤代?おーい」 「…うーん、覚えて無いんだ」 「…何よそれー」 山田ははあ、と息を吐くと、さっさと立ち上がった。 「もう授業だから、私行くわ」 「あー、そっか」 「藤代は?さぼんの?」 「うーん、もうちょっとしたら行く」 「…私、何も先生に言わないわよ」 …それはチクりはしないがフォローもしない、ということなのだろう。 山田はやはり表情をひとつも変えずに重たいドアを掴むと、一気に引いて立ち去る。 俺は笑顔で手を振り、山田を見送った後、考えた。 はどうしたんだろう。 前と変わらないようにはしているみたいだけれど、何だか微妙に違うんだよな。態度が。 俺が何か言ったのが原因なんだろうか。 うーん、あれか?もしかしたら、女の子って言って、照れたをからかったのが原因か? 俺はおもむろにポケットから飴玉を取り出して、口へ放り込む。 「…暑い」 口の中に広がる爽やかなレモン味とは対照的な蒸し暑さに、俺は屋上から退散することを選んだ。 教室へ戻ると、ひんやりとした空気に肌もほっとしたように落ち着く。もう3時間目だから、エアコンが入ったんだ。それを感じながら、自分の机へと向かう。 何とか教師の来る前に席につけそうだった。 ついこの前席替えをしたばかりで、自分の席へと着くと、ふと隣に考え事の大元がいるのに面食らった。 そいつはぼーっと窓の外なんか眺めている。 やっぱり、おかしいよなぁ、。 チャイムが鳴ってから先生が来るまでの時間、騒いでいるメンバーに漏れなくも入っていたはずだ。 なのに、この落ち着きようは一体何なんだよ。 思わず見とれた俺は、ふと、そのの首筋を見て、改めて、思う。 そうだよなぁ。コイツも女の子だもんなぁ。 俺らとは違うその華奢な首筋に、正直驚きつつも、何となく、俺はそれに見とれ続ける。 やっぱり、このクラスの男共は分かっちゃいねぇよなぁ。 しばらく見ていた俺にふっと気づいたらしいは怪訝そうにこちらを見た。 「何?」 「いや、は髪の毛、のばさねぇの?」 「は?」 思わず口をついた言葉は、その首筋を隠すようなそんな話題。 「結構似合うと思うんだけど」 見てみたい、と思う。 それにはは心底不思議そうな顔をして、言う。 「むしろあたしが想像できない!」 そう言ってが笑うと、丁度教師が教室に入ってきたところで、学級委員が起立を促したので、話しは途切れた。 俺には、それって多分、始まったってことが分かった。 今まで何となく抱いていた気持ちの名前が分かった瞬間だった。 のことを、知りたいと思ったんだ。 続きます → |