似てると思った。 そ れ は だ ん だ ん と
(1) 私は中学生になっても相変わらず、女っぽくはならなかった。 第一、クラスの中でも男女問わず話したり、笑わせるのが好きだったり、そういう感じだから、まさか女っぽくなる訳もなく。 周りからは気さくでいいヤツって思われるのがいつもで、私もそう思われているのが居心地良かったし、好きだった。 「、さ、俺と似てない?」 「はー?それは、キャラ的にーみたいなこと?」 「うん」 2年生になったばかり、同じクラスになった藤代に眩しいほどの笑顔でそう、言われた。 そう言われてみれば、そうかもしれない。 同じクラスで過ごすのは始まったばかりだけれども、私も、藤代も既に仲良しな感じがしていた。 それは、似ている、から? その会話を傍で聞いていた渡辺は言った。 「そいやあ、お前ら似てるっつうか、コンビみてぇ!夫婦漫才やっちまう?」 その言葉に私たちの周囲のクラスメイトは笑う。 あ、そうだな、と私は思う。 今までクラスの笑いの中心は私だけだったけれど、今は藤代がいつも私と一緒にいるな、と。 その時、私はひそかなライバル心のような、対抗的な感情が燃え上がるものを感じた。 けれども、そのひそかなライバル心なんてすぐに崩れ落ちてしまう。 彼は校内のアイドルだってことをそれから知ることになるから。 男の子にはイイヤツ、面白いヤツ、とモテモテ。 女の子にだってカッコイイ、カワイイ、ダイスキ、とすごくモテモテ。 私なんかは女の子には何故かモテるというか、仲良しな子がたくさんいるけれど。 女度ゼロパーセントだから言い寄る男なんているはずもない。 もう、その時点で藤代と私は違う。 そんな感情燃やすだけ無駄だということを悟り、その後は私は藤代と異様に仲良くなった。 向こうも私のことは気さくで付き合いやすいと言いながら、本当に男女の区別はあるけれど、友達になれたのだ。 それが、私と藤代の始まり。 時は夏に差しかかろうかという蒸し暑い日々。 恒例の校内球技大会の時だった。 「体育館、あっつー!」 私は汗ばむのを感じながら襟ぐりをパタパタとさせ、クラスの女子と一緒にいた。 「B、勝った?」 私がBチームのキャプテンである西野さんに尋ねると、彼女は眉をひそめて、申し訳なさそうに首を振った。 今年の女子の種目はバレーボール。 クラスの女子は2チームに別れて試合を進めていったのだけれど、私の所属しているAチームは決勝進出。Bチームは残念ながら、敗退、ということだった。 Aには現役バレー部員の人がいたし、私も身長は低いものの、球技に関しては器用なほうなので、なかなか強いチームだと思う。 戦力が偏らないように身長順で振り分けられたのだが、もう負けてしまったことは仕方が無い。 「じゃあー、Aの応援頼むね!みんなでがんばろー!」 私はそう言ってみんなの背中を叩いた。Aの子もBの子も嬉しそうにおー!と歓声をあげる。 私は、優しい女の子ばかりのクラスで良かったなって、しみじみその時思った。 「、男子も決勝行ったってさ」 「マジで!こりゃあカップル優勝飾るしかないねー!」 「本気でね!」 「おうよー」 仲良しのユカが気合を入れている。彼女もバレー部員の一人なのだ。 仕切りになっているネットに手をかけ、「今かららしいよー」と女子に情報を回す。 体育館をネットで半分に仕切り、入り口側が女子で、ステージ側が男子。 ふと、反対側のコートを見ると、クラスの男子たちの姿が見えた。 ユカが仕入れたばかりの情報の通り、皆何だか嬉しそうに盛り上がっている。 男子の種目はバスケ。 男子の決勝の方が私たちよりも早く始まると聞き、ギャラリーも増えていた。 それもそうか、と妙に頷けるのは、コートに藤代が走り出していくのが見えたから。 彼が見えた途端、黄色い歓声が沸く。 それを耳にして我がクラスの女生徒は皆一様に微妙な、ひきつったような表情をしている。 「ま、ね。藤代くん見たいよね。皆さ」 「でもウチらは同じクラスなんだからさ、もっと正々堂々応援したっていいんじゃない?」 みんな好き勝手に言い始める。 私はそれを横目にコートへと顔を向けた。 すると、藤代がこちらを向き、両手を振っている。 慌てて手を振り返しながら、女子らに「藤代が手ぇ振ってるよー」と告げると、さっきまでの表情はどこへやら。皆ネットに食いつくように手を振る。 その様子に藤代は気をよくしたか、にかっと笑い、大声を張り上げた。 「っー!てめー見てろよー!」 いきなりの名指しに戸惑うものの、私は彼とした約束を思い出し、笑いながら返す。 「あたしだって!やるんだからねー!!」 私の周りの女子は爆笑する。 私たちから遠い、藤代目当ての女子の視線は私を射るように刺す。 それをまともに感じ、私は苦笑い。 クラスの女子は成り行きを知っているからこそ、爆笑なのだけれども。 事の成り行きはこうだった。 「、賭ける?」 「何?球技大会?」 「おー、男子が優勝するに千円」 「たかっ。じゃあ女子が優勝するに五百円」 「半額かよ!」 「意味わからん。ええっと、もし女子が勝ったら、あたし藤代から五百円もらえるの?」 「俺がやるの?」 「…」 「…」 そのやりとりを見ていた笠井は吹き出す。 私と藤代は同時に笠井を軽く睨んだ。 「じゃあ、優勝したほうが、できなかったほうから、千円もらうってことで」 私はその笠井の発言に慌てて振り返る。 「笠井!たかいっつうの!」 その私の様子に笑いながら藤代はこう切り出した。 「じゃあーが優勝させたら何かおごってやる」 「お、それはAチームが優勝したらってことでいいのかな?」 突然の言葉に私は思わずにやり、とした。 多分、藤代は知らなかったのだ。Aチームに現役バレー部員がいることを。 「じゃあ、もし、藤代が優勝に貢献したら、あたしがおごるのね」 その言葉に藤代は私と同じく、にやり、とした。 あれ、まずかったかな。 藤代、バスケも得意なんだろうか。 「じゃあ、そういうことで」 藤代は私の肩をぽんぽんと叩いて言う。 そのとき周りにいた女の子の一人が、「どっちも優勝したらどうすんの?」と呟いたことで私たちは急におかしくなって、あの笠井までも爆笑したという訳だったのだ。 そういうことがあり、私は優勝に向けてかなり燃えていた。 それは藤代もそうらしく、いつもはヘラヘラ笑ってばかりだというのに、コートの中ではもう真剣な顔しか見られなくて、私は少し驚いた。 同時に、これが彼の魅力なのだということも気づかされた。 彼がサッカー部のレギュラーだということも知ってはいたけれど、一度もやっているところを見たことなんて無かった。 その藤代が真剣な表情でボールを掴んで、跳ねて、シュートを決めていたのを見て、きっと部活中もああなんだろうな、と思う。 確かに、すごく不覚だとは思うが、見とれる程格好良かったのだもの。 彼が綺麗にゴールにボールを放り込む度に、黄色い歓声はわあっと上がるし、それはいつしか体育館中から聞こえていた。 試合が終わると、藤代は最高の笑顔で私たちの元へ走りこんできた。 「勝ったぞー!!!見たかこのやろー!!」 汗が飛び散る程近くに寄ってくると、わぁっと歓声があがる。私の周りの女の子も、同じクラスの男の子も、皆集まる。 「すげぇし!」 「かっこよかった藤代くん!」 その皆の勢いの中、藤代はとびきりの笑顔で私を見た。 「お前もやれよ!」 その笑顔に圧倒されたか、私はらしくないことに言葉がでなくなる。 ぐうっと胸を押されたように言葉が出てこずに、少し、焦った。 「…うん。私もやる」 次は、藤代に私たちの勝利を見せ付ける番だものね。 私はその輪から離れ、一人考えた。 これで私たちが勝ったら、何か皆でお祝いしようって。 しばらくして、スピーカーで女子の決勝の始まりだと告げられた。 私は背が低いので、セッター。 丁寧にトスを上げる、そしてボールを拾うことに集中して、点数に繋げる。 ユカのアタックも気持ち良い程決まり、私たちは男子の勝利の波に乗ったまま、すんなりと勝利を決めたのだった。 試合終了の笛が響き、審判の女の子が高らかに、C組の勝ちだと言い放つ。 私たちは肩を抱き合い、喜んだ。 慌ててネットの方を振り向くと、藤代も大きくガッツポーズをしてこちらを見ていた。 「見たかー!!」 私が派手にピースを振りかざして藤代へ向けると、彼は大きく頷く。 その笑顔がすごく柔らかくて、私は意外なことに、自分の胸が高鳴る音を聞いたのだ。 球技大会も閉会し、HRも終わると、私は皆が帰る準備をし始めたところで急いで教卓のほうへ向かう。 「ちょっと待ってー皆。聞いてくださーい。今日、めでたく男女共に優勝できたので、みんなでお祝いか何かをしたいと思うんだけど!」 そう私が提言すると、一番に乗ってきたのは、やっぱりというかなんというか、藤代だった。 「いいじゃん!楽しそうー!」 それには返さず、私は続けた。 「で、具体的に何がしたいか、意見のある人いませんか?私は皆で花火でもしたいなって思ってますけど…先生どうでしょうか?」 最後のほうは教室の隅で黙って聞いていた担任の杉村先生を振り向いて言った。 先生は大きな身体をパイプイスに沈めたまま、無精ひげをさすりながら、うーん、と唸ったあとに、「まぁ、いいだろ」と頷いてくれた。 それを合図とばかりに、教室じゅうからやったーと歓声があがる。 藤代は勢いよく手をあげた。 「俺はカラオケしたい!」 それにも周りの男の子から賛成という声が多くあがった。 私は頷き、言う。 「じゃー、今度の土曜日、昼間カラオケしにいって、夜は河川敷で花火でどうかな?先生ももちろん引率お願いしますよ?」 先生は苦笑しながら、立ち上がり、私の隣で言った。 「今回は特別、ということで許可な」 またも教室内の大きな歓声に先生は苦笑いを緩めた。 「じゃ、幹事はな。皆協力してやってくれ。花火は俺が用意しておくから。カラオケなんかはお前らのほうがよく知ってるだろうから、まかせるよ」 「はい」 「では、今日はこれまでー」 私はその先生の声に従い、礼をすると、先生は教室を大きく見渡し、そして出ていった。 それから一番に声を出したのは、藤代。 「、イイこと言い出すじゃん!」 その笑顔はいつもと同じなのに、私は妙に意識してしまう。 さっきの柔らかい笑顔が脳裏にこびりついて、離れないみたい。 それでも、私はいつもと同じように返事をする。 「でしょ!もしW優勝したら、やろうと思ったの」 いつもと同じ、に笑えた私に、藤代は勢いでだろうか、肩を抱く。 「やっぱはイイな!お前サイコー!」 柄にもなく、どきどきし始める胸がうるさくて、でもそれを悟られるわけにはいかないから、私は平静を装う。 だって、こんなスキンシップ今までも何度かあったもの。 でもこんなにどきどきしたこと無かった。 私は自分の小さな変化を、変な話だけれど、見守るようにどこか他人事のように感じていた。 「そいじゃあ、藤代どっかカラオケおさえといてよ」 「オッケ!」 「特別用事の無い人は参加の方向でー!また詳しいことは明日か明後日、知らせるってことで!」 私がそう言うと、気のいい皆はめいめいに返事の言葉をし、帰宅していった。 残された私は、ユカと一緒に帰ろうとカバンを取り出した。 それを見て藤代も、「んじゃ明日」とかなんとか言って、部活へと向かったみたい。 藤代の背中を横目で見て、肩から、ふうっと力が抜けた。 びっくりした。 自分のどきどきっぷりに、びっくりした。 藤代も、そういうの屈託無くやる人だしな、と少し頭を押さえてみた。 「なーに?、頭でも痛い?」 ユカが覗き込んでくる。 私は心配させまいと、首を大きく横に振った。 「んーん!楽しみだなって、思ってさー」 「ふうん」 ユカはニヤニヤと私を見る。 何。 何だ。何か、気づいているの? 「何よ」 「いや、別に何でもないよ。あ、今日は部活だから先に寮帰ってていいよ」 ユカはしらっと話を終了させると、カバンをつかんで走り出した。 「あ、分かった。じゃーがんばってー」 その私の言葉に返すように手をひらひらさせてユカは教室を出て行った。 私も、残る級友に挨拶をして、教室を後にすることにした。 心の中では、次の土曜が楽しみで、仕方なかった。 続きます → 私が中2んとき、まったく同じ事をしました。 球技大会で男女共にW優勝を果たしたので、みんなで花火したんです。 楽しかったなー。 |