Rapunzel



 夏は過ぎたはずなのに残暑が厳しく残るこの頃。それでも何とか風が涼しく感じられるようになった気がして私は窓の外からの風を顔に受けていた。今日は委員会の定例会議だ。
 氷上くんが長机の上に軽く音を立てて掌を置いて、宣言するように声高に言う。
「この間のはば学と羽学の合同生徒会で文化祭の共同演劇を開催することに正式に決まりました。場所ははば学講堂にて、はば学の文化祭日に合わせて公演します」
 私は図書委員としてそれをぼんやりと聞いていた。はば学かー、赤城くんも劇出るのかなーと本当に考え事をしながら聞いていると、ふいに名前が呼ばれた気がして、大きく返事をした。

「は、はい!」
「じゃあそういうことで、頼む」
「はい?」

 私が氷上くんと目を合わせて、大きく首を傾げると、彼は怪訝そうに眉を顰めた。

「各委員会で選挙の結果、君が羽学代表の主役に決まったと言ったんだよ。聞いていなかったのか?」
「…………はい?」
「……君は何をしにこの委員会に参加しているのかい」
 氷上くんは呆れ返ったと言わんばかりに手を振った。私は頭を下げる。
「ごめんなさい、ちょっとよく意味が……え?」
「だから、それぞれ学校毎に主役を一人づつ。この場合、姫と王子を選出しようという話になり、選挙の結果、君になったと伝えたのだが?」
「……えっ」
「その他の配役も二校で分担して行うことになった。衣装及び小道具は―」

 その後の氷上くんの声は聞いてはいたはずだけれど、内容が全然耳に入ってこなかった。

 どうして私が、主役なの?



 よくよく話を聞くと、二校の全生徒から総選挙で配役を決めるのは大変だから、生徒会並びに各委員会のメンバーで主要の配役を決めようという話らしかった。そして選挙が行われたらしい。生憎、私が風邪で1週間休んでいた間に済んでしまったことらしく、私は選挙自体が行われたのも知らなかった。
 突然、今日が両校の出演者の顔合わせだということで、私はそのまま生徒会室に取り残された。傍にいた千代美ちゃんに私は話しかける。
「いつの間にこんなことになってたの…」
「この演劇の話自体は、去年から議題に乗っていたんですけれど、実際やるのは初めてですもんね。うまくいくといいですね!」
 小道具係をするという千代美ちゃんはやる気まんまんだった。
 そんな彼女に私はそれ以上何も言えなくて、黙って渡された台本に目を通した。

 演目は「ラプンツェル」だった。言わずとしれたグリム童話の王道であったけれど、近々映画化されるらしく、その話題で観客も集まるだろうと見込まれたものらしかった。
 気が重かったけれども、もう決まってしまったことを私一人が嫌だと言ったところでどうにもならない。せめて恥をかかないように、できれば目立たないように(主役だと言っても大げさに演技をしない、という意味で)迷惑をかけないように、セリフを覚えようと思っていたところ。
 廊下から人の話し声と足音がして、ふと扉に目をやると同時にそれが開かれた。

「あ」
「あ」
「赤城くん!?」
「君…?」

 生徒会室に入ってきたのははばたき学園の制服に身を包んだ一行で、もちろん今回の劇の演者さんたちだった。その先頭を歩いてきていたのが、赤城くん、その人で私はちっとも開いた口が塞がらなかった。

「どうして、え?赤城くんも演劇出るの?」
「まさか、君も出るのか?」
「まさかは余計だけど、出るよ」
「えっ……」

「君たち、何だ知り合いだったのか」
 氷上くんの声で私ははっとする。そうだった、確か赤城くんは生徒会の人なんだった。
「知り合いなら丁度いいじゃないか、君たちは姫と王子なのだから」

「!!」

 思わず私と赤城くんはお互い顔を見合わせた。
「君が姫だって?冗談だろう?」
「な、何でそんなこと言うのよ!赤城くんだって、全然王子様って柄じゃないじゃない!」
「仕方ないだろう、選挙で選ばれたんだから。別に立候補した訳じゃないよ」
「私だって!好きで選ばれたんじゃないもん!」
 顔合わせた途端、これだった。
 別に言い合いなんてしたくなんかないのに。
 ふと気付くと、氷上くんや千代美ちゃん、他の生徒会の面々やはば学の子たちも呆然と私たちのやり取りを見ているのが分かって、一瞬で私はわれに返った。それは彼も同じようで、ふいに私から目を逸らすと、声をあげた。

「とりあえず、お互いの役者の自己紹介から、始めようか」

 そう言うと、私に目を留めて、小さく笑った。
 顔だけは、顔だけは格好いいって認める。その笑顔もすごくどきどきさせられるっていうのは仕方が無い。でも私はなんとなく腑に落ちない気持ちを抱えたまま椅子に座った。
(私が姫っていうのが冗談ってどういうことよ……)







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