件名:RE:Re:RE:
本文:紺野から聞いたそうだな。留学する。7月までには向こうへ行く。
    来週食事でもしないか。


設楽先輩からメールがきたのは玉緒先輩と映画に行った次の日だった。
私は「分かりました。何食べに行きますか?」と返信すると、そのままベッドに横になった。スプリングが弾むぐらい大げさに倒れる。
玉緒先輩からはあれからメールも電話もない。いつもなら出かけた日はその日のうちにメールが来るのに。
でも聖司先輩には連絡したんだ。きっと真面目な性格だから、留学することお前より先に言っちゃったんだ。って電話したんだろうな。
「…そこが問題です…」
一人で呟くと、私は大きく息を吐く。

玉緒先輩がどうして私にそれを伝えたのか。
聖司先輩はどうしてギリギリまで私に伝えてくれなかったのか。
私は、自惚れてもいいのか。

卒業式の日、私は二人の先輩が迎えにきてくれて純粋に嬉しかった。
たった2ヶ月前のことを思い出す。
本当はあの日、私は自分の気持ちを伝えようと思っていたのだ。
でも居心地の良い3人を壊すことができなかった。
そういう建前で告白に踏み切ることができなかった私は臆病者だ。
それは、分かってる。




「遅い」
「す、すみません!電車乗り遅れちゃって」
「言い訳するな」
「すみません…」
久しぶりに会った聖司先輩は怒り顔だった。
…私が怒らせたんだけど。分かってるけど。
「久々だっていうのにお前は本当に…」
「すみませんってば!お腹空いちゃいましたからもう行きましょうよ!」
「おい!聞いているのか!」

私は勝手に一人で商店街の方へ歩き出した。
慌てて小走りで聖司先輩が横に並ぶ。こういうところが憎めない人だと思う。
「聞いてますよ。久しぶりですね。お好み焼き屋さん」
「いや、お前聞いてないだろ」
天気が良い日曜日のお昼。1ヶ月ぶりに会う先輩はもちろん何も変わっていなかった。

注文した豚玉が二人分届いてすぐ店員さんが奥へ引っ込むと、聖司先輩は目をすばやく瞬かせながら言う。
「これ、自分で焼かなきゃいけないのか?面倒だな…」
「楽しいんですよ?それが」
「この前の店は焼いたやつ持ってきてくれただろ」
焼いたやつ、って。
私はつい、言い回しが可笑しくて噴出してしまう。
「……何だよ」
聖司先輩の色白の頬がほんのりと染まる。
「いえ、別に」
興味深そうにテーブルに備え付けてある箱の蓋を開けていた手を引っ込める先輩。
気になるならやってみればいいのに…。
私はタネをかき混ぜながら口を開く。
「こうして、丸く広げて、お肉をのせまーす」
「ふん」
やってみたいくせに…。
「ひっくり返しまーす。はい!」
「お!」
じゅうっと上に乗せた豚肉が鉄板に焼き付けられて香りが広がった。
それは視覚にも嗅覚にも聴覚にも訴えかける。
先輩は大きなヘラでお好み焼きをつついてみている。
まだ返したばかりだから崩れやすいですよ、と伝えるとすぐにヘラを置いた。
ちょっと素直で面白い。

「…玉緒先輩が怒ったかもしれません」
お好み焼きが焼きあがるまで。少しの沈黙に耐えられず、私は心の中に溜まっていたものを吐き出してしまった。
「……はぁ?」
想定外の会話だったのか、聖司先輩は間の抜けた声を出す。あるいは他のことを考えていたのか。
頬杖を突いたままやっぱり鰹節の箱を開けていた先輩はやっとこちらを見る。
「どうせお前が変なこと言ったり、したんだろ」
「そんなこと…うーん、そうです、ね」
「なんだよ、歯切れ悪いな」
聖司先輩を見上げると明らかに眉毛が苛立ちを示していた。
こうしてすぐに気持ちを顔に出せる先輩を少し羨ましく思う。
「私、玉緒先輩が好きなんです」
「知ってる」
「ですよね…」
聖司先輩はかすかに鼻を鳴らして言う。そうなのだ。私が言う前に聖司先輩は私の気持ちに気づいていたのだから。
「でもきっと玉緒先輩は誤解したんだと思います」
「誤解?」
私は頷く。
「私が聖司先輩の話をしたから、きっと…」
「はぁ?意味が分からんな」
「私もよく分からないけど…」
前回のデートの経緯を私は話し始めた。
映画を観にいったこと。そして私が聖司先輩も呼べば良かったと言ったこと。
聖司先輩の顔は見る間に苦そうな表情になった。奥歯がぎりりっと鳴っていそうだ。
「おまえは、馬鹿だな」
アイツも馬鹿だけど、と付け加えて聖司先輩はふうっと大きく息をついた。
「う……そうですよね」
「本当に馬鹿だ。なんだそれ、心配して損した」
心配?
耳に入った言葉の意味が分からず、私は少し首を傾げた。
「心配してくれたんですか?」
そう私が言うと、聖司先輩は顔色ひとつ眉毛一本動かさず、ゆっくり言った。
「ばーか」
私は思わず笑ってしまう。
「ありがとうございます」
そろそろか、と、私は大きいヘラを手に取って、勢いよくひっくり返した。聖司先輩がおお、と声をあげる。
「焼けましたよ。食べましょうか」
頷きながら聖司先輩はヘラを焼きあがったお好み焼きに押し付けようとする。
「あ!先にソース塗ってください。切るまえにトッピング終わらせないと」
「は?もっと早くに言えよ。どれだよ、ソースって」









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